四角い入れ物に丸いやつが入ってるのが落ちていた

 昨夜のこと。兄が家から帰ってきて、親よりも先にご飯食べようかということになり、二人で晩飯を作ることになった。

 兄は帰ってきて間もない格好。コートをさっと部屋に脱ぎ捨て、何をしてきたのか短髪ながら髪が乱れていた。そんな容姿の兄と、何を食べるか相談し、そういえば昨日食べた鍋の残りがあったことに気付き、それで雑炊を作ることにした。

 冷蔵庫から卵を取り出し、器に卵をいくつか割りそれをかき混ぜていたのを横目に見ながらその辺をチラチラ見ていた時だった。兄のすぐ後ろの床に何か見慣れているようで見慣れないものが落ちていた。


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 こ、これは……!!

 女性を妊娠させないために使う道具……!!


 色は見慣れないものだけど、四角い形状をした袋の中にある丸い何かが入っていることを強調するように膨らんでいる。これはコンドーなんとかそのものではないか!!??

 ここは台所。料理に使うものでこういった形のものは見たことがない。であるならば、兄がポケットに忍ばせていてそれが床にポトンと落ちてしまったという見方が正しいだろう。それに出かけるときに使うもの。つまりこれはコンドーなんとか!!

 ほぼコンドーなんとかだということが確定。彼女いないはずなのになんでこんなの持ってるんだろう……、遊びで使えるような人でもいるのか……?などと頭のなかを巡らせているときにも兄は僕に雑炊のこととか卵のこととかを楽しそうに話している。こやつめ、後ろにとんでもないものが落ちているというのに、なんて無邪気そうな顔をしているんだ。コンドーなんとかを使ってるときの顔が本当の兄なんだと思うとその顔は嘘にしか感じなかった。

 そんな無邪気そうな顔をしている兄のために、なんとか人としての形を保たせてあげたいなと思った僕はなんとかこれを僕にばれないような形で拾わせてあげたいと思った。でも兄が床に落ちているコンドーなんとかに気付く確率は低そう。なにせ後ろに落ちているわけだから。背後の、しかも床にあるものなんか気付けない。でも、なんとかチャンスをあげようと思ってよその方向を向いたり違うところに歩いたりスマホ見たりいろんなことをした。でも兄は一切それを拾うことなく料理に夢中だった。そんなに卵を鍋の中に入れるのが楽しいのか。さっきまで女の中に入れて楽しんでたくせに。

 結局、僕はほとんど料理することなく調味料とか器とか出すだけしかしなかったが料理は早々に完成。かなり美味しそうに仕上がった。よーし、これを器によそうからその間に兄に拾ってもらいたい…!と思い器によそっていたが兄はその様子を見ては「もうちょっと食べたら?少なくない?」などと言い出す始末。そんなことより拾えや。


 よそい終わり、それぞれの部屋に戻るだけだった時。兄が後ろを振り向き、コンドーなんとかが落ちていることに気付いた。


 これで僕は目をそむければよかったのだが、気になっていたのは間違いなかったので自分に嘘はつくまいとガン見した。

 しかし、兄はそれを見て首をかしげるようにして、それを台所のそばに置いてある棚に置いた。


 ……えぇ!?そこ置くの!?親が帰ってきたらバレるよ?僕の不安は最高潮。それだけは絶対にいけない。僕にガン見されたからとはいえ、それを部屋に持ち帰らないのは完全に失策。「なんだこれ、俺のじゃねえや」などとかっこつけてる場合じゃないんだよ!?僕にバレたとしても黙ってるから持ち帰れよ!そう思いつつも、僕もなんだこれみたいな顔してそのまま部屋に戻った。兄も部屋に戻った。


 食べてるときに、もう一度ちゃんとあのコンドーなんとかを確認しようと思った。一体どんなコンドーなんとかを兄は使っているのか……。袋から取り出すのはしなくとも、何も文字が見えなかったわけだから表を向けて名前だけでも確認しておきたい。そんなわけで、行儀が悪いのを承知で、兄が台所に来ないうちに確認することにした。


 台所に戻り、コンドーなんとかがあることを確かめた。そしてそれを表に向けた。


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 パ ー シ ャ ル デ ン ト



 兄はコンドーなんとかなど持っていっておらず、もともと台所に落ちてたものだった。それもポリデント。そういえば親も入れ歯を洗うような年齢になっていた。そうか、親もそんな歳か……などと感慨深く思いつつ、入れ歯を洗う親を想像しながら雑炊を食べた。美味しくなかった。

2匹の子猫

 仕事を終えて家に帰り、風呂に入ったあとに洗濯物を干そうと思ってベランダに行った時のこと。うちのベランダは塀があって、それが高い壁になっていることで洗濯物や家の様子を覗かれにくい仕様になってるんだけども、その塀のところに子猫が2匹やってきた。

 1匹はアメリカンショートヘアーで、もう1匹は全身白色だった。本当に2匹ともすごく小柄で、生まれて1年程度のようなとても小さく華奢だった。

 その2匹のうち、アメリカンショートヘアーのほうの子猫は、洗濯物を干している僕や明るい電気のついた部屋の様子が気になったのか、塀からベランダのほうに降りてきた。一度降りると、ジャンプなどをして元の場所に戻ることなど不可能だ。僕から見れば首あたりまでの高さがあり、子猫からすれば身長の5倍ほどの高さのある塀だ。何も考えず、ただ興味をそそられて降りてきたアメリカンショートヘアーの子猫は、僕を見るなり、にゃあにゃあと鳴き出した。

 その鳴き声の意味はよくわからなかったが、僕を警戒しているような鳴き方ではなかった。かといって甘えるような鳴き声でもなく、ただ存在を示すためだけのような、意味のあるようで何もないような鳴き方だった。そのアメリカンショートヘアーの子猫は、とりあえず降りてきただけなため、塀の上にいる白色の子猫のもとへ帰ろうにも帰れず、助けを求めるために部屋の窓を引っかきはじめ、さらにまたにゃあにゃあと鳴き出した。

 思わず家に入れてあげたくなるような可愛さだったが、白色の子猫のこともあるし、うちの家はペット禁止なので入れてあげることなどできない。なので、そうやって助けを求め鳴いているアメリカンショートヘアーの子猫を、塀の上で心配そうに見つめている白色の子猫のもとへ返すことにした。

 実は、僕は猫を一切触ったことがない。生まれてこの方、犬しか飼ったことはなく、もっぱら犬派の人間なのだ。猫はインターネットの場において犬を上回るほどの人気があるけれども、あまり猫を可愛いと思えたことはない。それに、猫を触る機会は、友達の家に行った時に友達が飼っていた猫がいたので触ろうと思えば触れたが汚い猫だったので触る気にもなれなかった。他にも、ガソリンスタンドで飼われていた猫を触ってみようと思ったのだが、触る直前で猫に左前足ではたかれてしまった。触る機会があったことなどそれくらいなもので、それでいて触れた試しなどないものだから、僕は完全に犬派なのである。

 そんな僕に、猫を触らなければならない時がきたのだ。塀の上にいる白猫のもとへ返さなければならない前足の下に手を回し、両手で抱える必要がある。それを、このアメリカンショートヘアーの子猫は許してくれるのだろうか。猫を触ったことのない人間に心を開いてくれるのだろうか。

 恐る恐る、両前足の下に手を回してみた。その子猫の体は本当に華奢で、皮の中の骨を直接つかんでいるかのように細く、それでいてとても軽く、ふわふわした柔らかい感触が両手に広がった。子猫はまったく動じなかった。心を開いてくれた。ただ洗濯物を干していただけの、ほんの少し前に出会っただけの僕に。猫に触れた、触らせてくれた感動を胸に秘めながら、優しく塀の上に戻してあげた。

 再び塀の上で出会った2匹の子猫は、体を寄せ合いながら、僕のうちのベランダとは逆のほうへ、つまり、道路のほうへ飛んだ。とはいっても車など一切走っておらず、人も全く歩いていない。

 何もなく、誰もいない塀の向こうの道路で、2匹の子猫は、また体を寄せ合った。さっきよりも深く、ひとつになるように。顔同士、体同士をくっつけ、再会を喜んでいるかのようだった。

 それから少しして、さっきまでのことを忘れたような、忘れたいかのように、遠くのほうへゆっくりと歩いて行った。

 僕は、なんだかちょっとしたドラマを見せられているような、ドラマに参加したような気分になっていた。恋人がピンチに陥り、それを僕が救出し、再会を体を寄せあって喜ぶ。思わず感動してしまい、僕の心は猫一色に染まってしまった。

狂い日

 高校生の頃、ヒカルの碁に夢中になっていた影響で囲碁をはじめた。当時も、その頃は囲碁がすごく流行っていた。とはいっても、リアルで囲碁を打ってくれる友達なんて一人もいなかったので、インターネットの囲碁サイトによく行っていた。そこで、僕と同じようにヒカルの碁をきっかけに囲碁をはじめた人たちがたくさんいた。

 そこで何人もの人と囲碁友達になったんだけども、そこで知り合った人とは今も付き合いがあり、たまに囲碁を打ったり雑談したりと、良いネット友達の関係を築けている。そんな囲碁友達の中の1人が、僕の住んでるところから電車で2時間ほどの距離にある、観光地ともいえるような賑やかな地域にある喫茶店で働いているということを聞いた。今まで1度も会ったことはないけれども、社会人になった現在、お金には若干の余裕ができたということで、会いに行くなら今しかないだろうと思って会いに行くことにした。

 でも、その人は女性で、僕は男性である。いくら友達といっても、男女2人っていうのは変。それに彼女はただ働いているだけで、その場所に冷やかしに行くだけであって、そのあとに二人で食事に行くつもりもない。とはいうものの、ただ冷やかしに行くために電車で2時間、往復で4時間も揺らされるのは少し気が乗らない。そんなわけで、その人とは違う囲碁で知り合ったネット友達を連れて行くことにした。それで、2人でその場所を観光しようという計画を立てた。観光地でありながら、僕たち2人はその場所には全く縁がなかったのでちょうどいいのではないかと思ったのだ。

 僕ら2人が計画した事は以下の通りだ。まず、喫茶店に行って友達に会い、ご飯を食べつつ冷やかす。その喫茶店では客と従業員での交流が非常にしやすいため、リアル環境で囲碁を打つ。そのことについては相手にも了承をもらっている。ご飯を食べ終わり、話したいことなどを話し終えたあとに2人で観光。お互いに翌日は仕事ということもあるので夕暮れには解散する。以上である。

 これらのことを頭に入れ、当日にその友達と待ち合わせをし、喫茶店に行った。僕の顔を見るなり、少し驚きの表情を浮かべていたのが印象的だった。驚かれたのは僕の想像とは違ったけど、まぁ喫茶店に無事着けたし計画は順調に進行している。

 その喫茶店で、3人で昔話に花を咲かせた。あの時の囲碁の盛り上がり具合や、他に一緒になって囲碁を打って遊んでいた友達のこと、現在のことなど。はじめて見る顔なのに、話がとても盛り上がった。長くネット友達を続けていたからなのか、元々性格の相性が良かったからなのかよくわからないけど、なんだか不思議な感じがした。

 いろいろな話をしているときに、計画していた、この場所で囲碁を打つ話をした。すると、彼女は「負けたくないから私の師匠に代わりに打ってもらう」と言った。たしか、会う約束をする時にそんなことを言っていた覚えがある。覚えがあるけれども、でもそんなことはただの冗談だろうと思っていた。なんてったって、僕からすればただの他人でしかない。それに、師匠はただ知らない人と打たされるためだけに呼ばれるわけだ。意味がわからないだろう。そんなことを本気でやるとは思えなかった。でも彼女は本気だった。

 師匠は僕らがランチを食べたあとにやってきた。折りたたみ式の碁盤を抱えて。あぁ、この人、やる気だ。意味がわからないけど、とりあえず初対面の挨拶だけはちゃんと済ませた。それと、お互いに彼女に対する意味の分からなさについて考えが一致していることを確認した。

 本当に彼女と師匠とわけも分からず打たないといけないのか?と思ったが、彼女は本気らしかった。師匠もやる気だ。そんなこんなで、囲碁を打つ話はあっという間に進み、彼女とその師匠、僕と友達という2対2の変則マッチで交代交代に打っていく形で囲碁を打つことになった。ここで僕の計画がひとつ破綻した。

 囲碁は僕らの負けに終わった。僅差で面白い囲碁にはなったが、それよりもわけのわからないこの状況にまだ戸惑っていた。

 僕の想像していたものでは、彼女と僕ら3人で楽しく雑談をしていたはずだった。さっきまでそうしていたはずだった。でも、今はその場所に初対面である彼女の師匠がいる。少しギクシャクした、探り探りの会話。年齢もそこそこ離れているため、話もなかなか合わない。違和感が、まずい。

 僕はもうさっさと観光に行こうと思った。師匠は囲碁を打つために来ただけだし、彼女は働いている。僕ら2人はこれから観光に行く予定なのだ。早くここから出て行くべきではないか。そうやって足早に出て行こうと思ったが、彼女は「師匠はこれから暇なん?三田さんたち、これから観光するらしいんだけど案内してあげたらどう?」と言った。余計なお世話……。

 師匠も計画がいろいろと狂っているらしく、どうやら仕事から抜けだしてまで来たそうだ。自営業なので可能だったみたいだが、僕らよりも振り回されている。もうどうせだからさらに振り回されようとしたのか、考えることを放棄したような顔で「うん、いいよ」と言った。僕も無表情になった。2人で観光するという計画が破綻した。

 観光は比較的スムーズだった。もともと行きたいところはある程度決まっていたこともあったし、場所を言えばいろいろなところに連れて行ってくれた。観光としてはすごく良かったし満足だった。でも、僕らは初対面である。もちろん、僕と一緒に観光している友達も師匠とは初対面だ。お互いにこの状況をだまって飲み込むしかなかった。それがずっと頭にあったため、観光としてはすごく良くても変な違和感がずっと残っているのだ。

 ある程度観光が済み、もう日が暮れてきたし帰ろうかなと思い始めた頃、彼女の仕事が終わり、こちらに合流するとのこと。どうやら晩御飯を一緒に食べるつもりらしい。もちろん彼女の師匠も一緒だ。全員、半分白目を剥くような形で彼女が仕事を終えるのを待ち、彼女と合流してから和食のおいしいお店に行った。もう計画はすべて破綻した。

 それからのことはあまり覚えていない。明日の仕事のことや、一緒に来た友達に申し訳ないことをしたと考えたりなどをしていたため、たとえ雑談の輪に入っても何を話したのか全然覚えてないし何も考えられてなかった。一方、師匠は開き直ったのかすごく楽しんでいた。友達もそこそこ楽しんでいる様子だったが、明日のことについて少し心配しているようにも思えた。

 結局、21:30頃までお店で話した。4時間くらい計画がズレた。もう何も上手くいっていない。これが「観光」なのだろうか。みんなと別れ、家に帰るまでの道中、「観光」について哲学したり、明日のことや友達への謝罪などで頭がいっぱいになった。

 僕も計画が大きく狂うことになったが、それよりも彼女の師匠が一番狂ってしまっただろう。僕は帰るときも正気を保っていたけど、師匠はもう何も怖くないように明るく笑いながら現実を楽しんでいた。そういう意味でも師匠は大きく狂っていた。

 一方、計画がすこぶる上手くいったのは喫茶店で働くネット囲碁サイトで知り合った女友達だろう。思えば、師匠を呼ぶことは何も障害なく成功し、囲碁に勝つ自信がないために呼んだ師匠のおかげで対局に勝つこともできたし、観光に連れて行かせることもできたし、晩御飯もみんなで楽しく食べることもできた。何も不満なことなんてないだろう。計画をする以前の段階に「師匠を呼ぶ」と言っていたあたりから彼女の計画は密かに進行していて、僕らは手のひらの上で転がされていたのだろう。結局は僕らが計画した観光ツアーではなく、彼女によって計画された観光ツアー旅行だった。ガイドさん、素敵なツアーをどうもありがとうございました(白目)。