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スリップ★ホリデイ

 僕は毎週木曜日が休みのため、欲しいものを買い占め、溜まっているものを消化していくのが主な過ごし方。そのため、いろいろな場所に出かけるなどをしてあっという間に一日が終わる。こないだの木曜日も、その流れでいろいろな場所に出かける予定を立てていた。

 今回の木曜日に消化する予定は、上映時間の長い映画を観ること、まだ聴けていない名盤を聴くこと、である。

 今はとあるアニメにハマっているため、そればかり借りている。そのアニメのシリーズ1作目は観終わったので、その1作目と時系列でつながりのある作品を借りていたのでそれから消化していくことにした。

 それは全部で5巻あり、そのうちの1~3巻を借りていた。1巻に30分しかないため、3巻まで観ても90分。あっという間に観終わってしまった。

 ストーリーも面白いために、早く続きが観たくなってしまった。来週の水曜日あたりに続きを借りるつもりだったが、せっかく出かけるわけだし、それに今日は給料日である。DVD2枚を借りるくらい容易いだけのお金があるわけだ。というわけで、予定外だが4,5巻を借りにいくことにした。

 借りに行くついでに聴いていなかった名盤を聴くことにした。そのほうが時間を無駄にしないで済むだろう。というわけで、こないだ借りたAC/DCの「BACK IN BLACK」とBlack Sabbathの「Paranoid」をiPodで再生することに。

 ちなみに、AC/DCの「BACK IN BLACK」は世界で4900万枚を売り上げたアルバムで、歴代3位の売り上げを記録している歴史的名盤(1位はスリラー、2位はピンクフロイドの狂気)。Black Sabbathの「Paranoid」は世界にへヴィメタルを浸透させるきっかけとなったアルバムで、そのアルバムを作ったBlack Sabbathへヴィメタルの始祖ともいわれているバンドである。

 僕はバイク乗りのため、バイクにまたがりイヤホンをつけて出発。まずはAC/DC。ハードな音ながらポップさがあるため聴きやすく運転中のテンションはダダ上がり。これが歴代3位か。そのすごさに浸りながらの旅路はとても優雅だった。

 楽しいドライブはあっという間に終わり、TSUTAYAに到着。借りたかった作品のあるアニメコーナーに行く。―――も、そこに「マクロスゼロ」は無かった。借りられていた。シリーズでもそんなに突出した人気のある作品というわけでもないのに…。仕方なく、来週借りようと思っていた映画を借りた。

 トボトボと店を出るも、やはり納得いかない。どうしても続きが観たい。そうなってしまってはもう僕の心は動かない。続きを絶対に借りてやる。そう思い、また別のレンタルショップに足を運ぶことにした。

 そこでAC/DCは聴き終わった。さて次はBlack Sabbathだ。全く知らないが音楽を知るためには外せないアルバムだし名盤と言われているのだから良いに違いないだろう。そう思いながらiPodで再生し、再びバイクを走らせた。

 AC/DCを聴き、さらにBlack Sabbathを流しているわけだからテンションは最高潮。しかも僕の心はレンタルショップへ一直線である。落ち着いた僕ならばまずあり得ないことだが、行ったことはないが近道と思われる道路を走りたくなった。もう誰にも僕を止められない。止めることはできない。知らない道をひたすら突き進む。

 しかし、その道はまるで近道ではなかった。

 どんどん山のほうへ入っていく。引き返したい気持ちもあるが、もはや道がわからないため引き返すことも不可能。車の影もまるで無く、何を目印に走ればいいのか全く見当がつかない。そこで、僕のとった選択肢はこうだ。

 とりあえず走っていればどこかに着くだろう。

 テンションが高まりまくり何も考えられなくなった僕が出した選択肢はバカバカしく、それでいてポジティブなものだった。

 そんなポジティブな考えとは裏腹に、どんどん道は狭まり、バイクで走ることも想定していないほどの山道に入っていく。道路も全く舗装されておらず凹凸が激しく、ポジティブな気持ちも徐々に薄れていく。このまま走った先が行き止まりである可能性すらあるように思えた。

 聴いているBlack Sabbathの「Paranoid」も、AC/DCほど僕の心に響かず、ただハードな音が流れていた。全く知らない道を、全く知らない曲を聴きながら走る。道にもアルバムにも不安を感じ、それでいて何も知らない道・知らない曲を聴くのは心をひどく苦しめた。

 どんどん奥のほうへ入り、2日前に降った雨が乾かないほど森林が生い茂っている道になっていった。舗装もされておらず、それでいて濡れた道を走るのはバイクといえどきついものがある。速度をゆるめ走るも、それもそれで心を不安にさせる要因となっていった。限りなく広い森林なのにどんどん狭い場所に入っている感覚がとても恐ろしかった。

 地面はさらにぬかるみを増した。もうだめかもしれない。引き返すのも手かもしれない。そう思った矢先、ふと耳から知っている音楽が流れた。「アイアンマン」である。以前の「アメトーーーク」のハードロック芸人の回で流れていた曲だった。僕のテンションは急に上がった。周りにあるものが知らないものばかりで、その中で知ってるものに久しぶりに巡り合えたからなのかもしれない。

 それによってスピードを上げたことが原因で、見事なためにスリップ。バイクは横転し、僕も横転し少し膝をすりむいた。

 それだけならまだよかったものの、道路はかなりぬかるんでいるのである。横転したことで僕もバイクも泥だらけになってしまった。上着もジーンズもシャツも泥まみれになり、僕は今までの不安もかすかに上がったテンションもすべて吹き飛び現実を直視した。早く家に帰ろう。そう思った。

 一瞬にしてすべてを反省し、ただ前だけを見つめ、家に帰ることだけを考えた。そして、今までよりもスピードを緩めながらも走り続け、それなりに大きな道に出ることができた。そこからトントン拍子で知ってる道に出ることができた。

 その「知ってる道」は、AC/DCからBlack Sabbathに切り替えた時、言い換えれば次のレンタルショップに向かおうとした時、近道をしようと思った道だった。結局、レンタルショップに向けて「進んでいた」はずだったが、気付けば「引き返していた」のであった。

 見るも無残な恰好のまま、まっすぐ家に帰り、着ていた服を洗濯機に入れ、バイクも洗浄する。家を出たのは昼前の11時過ぎだったはずなのに、バイクの洗浄が終わった頃には夕方6時過ぎになっていた。普通にレンタルショップに行ってアニメの続きを借りて帰って続きを観ても夕方5時程度なはずだったのに。迷ったのも大きかったがそれ以上に転んで服とバイクを汚したことによる時間の消費があまりにも大きかった。


 部屋で何も考えずただ転がっていると、会社から1通のメールが届いた。それは「アンピサイト」への登録というものだった。そういえば以前、メールアドレスを教えてくれと会社に頼まれていたが、これに登録してほしいということだったのか。でも聞き慣れない「アンピサイト」という言葉。よくわからないが、メールの本文に貼られていたリンクを踏む。そして僕はこのメールの意味を知った。

フォト

 アンピサイトとは、出勤時や退勤時に事故に巻き込まれるなどした際に登録するもので、アンピサイトは「安否サイト」ということだったのだ。僕は何も悩まず速攻で「助けを求めています」に設定した。僕の心は未だにボロボロのままなのである。