奇怪な公衆電話
僕が中学生の頃、卓球部に所属していた。その卓球部の試合で県大会に出場することになり、都会のほうへ遠征をしに行った時のことだった。
うちの卓球部は市内でそこそこ程度の実力でしかなかったため、県大会ではひどい結果となり、かなりの暇ができてしまった。ほぼすべての部員の出番が終わり、残すは1,2名ほど。それも参加人数が多いためになかなか出番が回ってこず、その試合を残している部員も含め、とても暇なのであった。
うちの部員の中でもかなり弱い部類に入る、遊ぶのが大好きなやつがいるのだが、そいつと、一緒によくつるんでいる部員らが公衆電話で何か賑やかに遊んでいるのを目撃した。暇だからって公衆電話でいったい何やってるんだと思ってそばに近寄っていくと、
部員「おい!ちょっと来てみ!1111って押してみ!」
と、遊びたがりの部員に言われた。1111ってなんなんだ、どこかのコールセンターとか警察署的なところにかかるのか、と思ったが4桁だしなんなんだろうと思い、とりあえず言われた通りに押してみた。
しかし、何も起こらない。
どこにもかかる気配もない。
なんだ、僕をからかったのか?
そう思っていると――
trrrrrr!!!!!!!!
突然、公衆電話に電話がかかってきた!
な、なんでだ!?公衆電話に電話がかかってくる!?はじめて目撃した光景だ。黒電話の着信音のような音で、それもかなり大きい音だった。電話番号が1111の場所からの電話なのだろうか?とはいえ、公衆電話に電話がかかってくるなんてことがあるのだろうか?よく状況がわからなかったが、僕はとりあえず電話を取ってみた。
僕「も、もしもし・・・」
しかし、反応はない。
1111にかけた先の人から電話がかかってきたのかと思ったが、どうやらそんな様子でもない。それに、「ツーツーツー」といったような電話が切れた音もない。鳴った音は、黒電話のような着信音だけ。公衆電話に電話がかかってきたのは間違いないものの、誰からかかってきたのかもわからない。
部員「な!?すごいやろ!?遊びでかけてたらこうなったんやけど、なんなんやろな」
周りの部員たちも不思議そうにこの光景を眺めていた。そのあとも、原因を解明しようとして何度も1111に電話をかけたり、2222や3333などの番号に電話をしてみたりもした。しかし、公衆電話に電話がかかってきたのは1111だけ。一旦1111に電話をして、電話を取らずに待ってみたりしたものの、何回かコールがあって切れるだけ。意味が全くわからない。暇な部員たちみんなで卓球のことなどそっちのけで公衆電話の謎に夢中になっていた。
1111に5回ほどかけたものの、何も進展もなく、解明も全くされなかった。あまりにも恐ろしいし、それでいて面白い。この謎をどうにかしたいという思いと、大人の力が欲しいという理由で、24歳の卓球部顧問の新米教師(茶髪)を呼ぶことにした。
先生はすぐに来てくれた。頭の上に「?」マークが大量に浮かんでいるような顔を浮かべていた。とりあえず、遊びたがりの部員が事情を説明する。
部員「先生!この公衆電話、電話がかかってくるんですよ!」
先生「は?そんなことないやろ」
部員「いや本当なんで!電話かかってきたら取ってみてくださいよ」
先生「はぁ。」
先生はさらに頭の上に「?」マークが大量に浮かんでいる顔になっていたが、さきほどと同じように1111に電話をした。
すると、今までと同じように電話がかかってきた。
trrrrrrrrrr!!!!!!!!!
先生「うぉ!かかってきた!」
電話がかかってきた瞬間、先生の体は反射反応でビクッと震わせていた。頭の上の「?」マークが「!」マークに変わったような顔を浮かべ、先生はビクビクしながら公衆電話の受話器を手に取った。
先生「も、もしもし・・・」
もちろん反応は無い。
先生の顔はみるみるうちに青ざめていき、呆然と立ち尽くしていた。そりゃそうだろう。知らない相手からの電話がなぜか公衆電話にかかってきて、受話器を取っても反応が一切ないのだから。怖くて怖くてたまらなかったのだろう、「変ないたずらはやめろよ!他の部員の応援せえ!」などという捨て台詞を吐き、足早に公衆電話の場から去っていった。
その光景に僕含む部員たちは大笑い。それに、応援しなければならない部員も公衆電話の場にいたのだ。誰も卓球に目がいっていない。100%公衆電話だ。ただ、とてもおもしろかったのはよかったが、県大会が終わっても公衆電話の謎は一切わからないままだった。
それから数年後のこと。インターネットで暇を潰しているとき、公衆電話に電話がかかってくる事について質問していたページを見つけた。
http://
質問者「公衆電話で『1111』にかけたら、電話がかかってくるの?」
回答者「電話の工事をした時に回線の確認をするために自動的にコールバックしてくる番号が有りました。公衆電話だけでは有りません。今は違うみたいです」
とのことだった。受話器を取っても返事がなく「ツーツーツー」も聞こえなかったのもコールバックされるだけだったからだったのか。奇怪な謎は、公衆電話のほうではなく、偶然にも電話工事の際にかける番号を発見した遊びたがりな部員のほうであった。